いざ相続手続きが始まり亡くなった人や相続人の戸籍が必要になっても、誰の戸籍をどこまで取得すればいいのか悩まれる方も多いと思います。
血縁者すべての戸籍謄本が必要なのか? 全員の出生時まで遡る必要があるのか?
実際に相続人調査を開始してみると、想定外の戸籍が必要になることもあります。
どこまで戸籍謄本を取得すればいいか、どこまでが相続人になるのか悩まれる方も多いと思います。
しかし以下を読み進めていただければ、これから相続人調査をしようと考えていらっしゃる方にとって、どれくらいの通数の戸籍謄本が必要か大よその目安にはしていただけると思います。
また、戸籍を集める際の「ムダ」を省くためのご参考にしていただければ幸いです。
【もくじ】では必要度の高い順に記載しています。
順番に読み進めていくと、どこまでが相続人になるのか、必要な戸籍の範囲がどこまでか確定できます。
例えば、【もくじ】にある「子」までで済んでしまえば、以下「直系尊属」「兄弟姉妹」の戸籍謄本は不要です。
※以下、本文は少し長くなります。
戸籍取得通数の大よその目安のみでしたら「相続で戸籍は何通ぐらい必要?~多くなりそうなケース~」をご参照ください。
誰が相続人か結論のみ知りたい場合は「遺産を相続できる人できない人」をご参照ください。
以下、もくじに沿ってそれぞれの解説と、各項目ごとに必要な戸籍の範囲がどこまでかを記載していきます。
1.被相続人の戸籍謄本等
亡くなった人のことを「被相続人」といいます。
この人の財産が相続の対象となります。
※財産には負の財産(借金など)も含まれます。
必要な戸籍謄本等の範囲
生まれてから亡くなるまでの戸籍すべてが必要となります。
被相続人の子は第一順位の相続人になります。
被相続人の子について漏れなく調べなければならないからです。
また、亡くなった時点での住所を特定するために、住民票または戸籍の附票が必要です。
2.法定相続人の戸籍謄本等
亡くなった人を「被相続人」、被相続人の財産を相続する人を「相続人」といいます。
法定相続人とは民法で定められた相続人のことをいいます。
被相続人の配偶者、子、直系尊属、兄弟姉妹が該当します。
以下、それぞれの相続人について詳しくみていきます。
1.配偶者
配偶者は常に相続人の地位にあります。
他の法定相続人は相続の順位が決まっていて、順位が上の相続人がいた場合には相続人にはなれません。
例えば、子と兄弟姉妹が相続人になる、というようなことはありません。
しかし、配偶者は他に相続人がいても常に相続人になります。
また、他に相続人がいない場合には、すべて相続します。
どれくらいの割合で相続できるかは他の相続人が誰なのかにより異なるので、それぞれの項目でみていきます。
必要な戸籍謄本等の範囲
基本的に「配偶者の戸籍」というものは必要ありません。
なぜなら「被相続人」が亡くなった時点で同じ戸籍に入っているので、被相続人の戸籍を取得すれば足りるからです。
亡くなった時点で被相続人と別戸籍になっていれば、法定相続人ではありません。(離婚、内縁関係など)
ただし、被相続人が死亡した時点で配偶者がいて、その後その配偶者が死亡した場合には、戸籍または住民票などが必要になります。(死亡したことを証明するため)
また、住所が被相続人の書類のみで証明できない場合には、住民票などが必要になります。(被相続人死亡の時に別居中、死亡後に転居した場合など)
2.子(第一順位、2分の1)
子は第一順位で相続人になります。
子がいる場合には、次以降の項目にでてくる直系尊属、兄弟姉妹は相続人にはなれません。
配偶者との法定相続割合は 配偶者:2分の1 子:2分の1
上記2分の1は子全員での取り分です。
<例> 相続財産900万円 相続人:妻、子3人の場合
法定相続割合 | 子それぞれの割合 | 相続する金額 | |
妻 | 2分の1 | ― | 450万円 |
子 | 2分の1 | ←の3分の1 | 150万円 |
子 | ←の3分の1 | 150万円 | |
子 | ←の3分の1 | 150万円 |
上記例のとおり、子1人あたりの相続分は全財産の6分の1になります。
配偶者がいない場合には、子がすべて相続します。
また、子には代襲相続が発生します。
(参考:代襲相続できる人はどこまでか)
代襲相続とはネーミングのとおり「代わりに受け継いで相続する」という意味です。
相続が発生した時に子が死亡していた場合、その子に子(被相続人の孫)がいれば相続は受け継がれます。
また子(孫)も死亡、さらにその子(ひ孫)がいる場合にはその子(ひ孫)へとずっと受け継がれていきます。
相続そのものが受け継がれるので、相続人の地位・法定相続割合は子と全く同じになります。
子(死亡) ⇒ 孫(死亡) ⇒ ひ孫(死亡) ⇒ ・・・
実際には寿命などを考慮すると代襲相続は限られてきますが、理論上はずっと受け継がれることになります。
※ただし、相続放棄をした場合には、そこで相続はストップして受け継がれません。
<例> 子(死亡) ⇒ 孫が相続放棄 ⇒ ×ひ孫
上記のように孫が相続放棄した場合には、孫は相続人として始めから「いなかった」ものとしてカウントされます。
ひ孫には代襲相続は発生せず、次の順位の相続人(直系尊属)が相続します。
必要な戸籍謄本等の範囲
被相続人と親子関係が分かる戸籍が必要となります。
被相続人の戸籍と重複するものについては改めて取得する必要はありません。
現住所を特定するために住民票または戸籍の附票も必要になります。
子が死亡している場合には、子の生まれた時から死亡時までの戸籍が必要となります。
代襲相続が発生するからです。
代襲相続が発生した場合には、孫・ひ孫などについての必要な戸籍も同様になります。
被相続人に子(または代襲相続人)がいる場合には、ここまでで相続人調査は終了です。
以下、直系尊属・兄弟姉妹は相続人にならないからです。
3.直系尊属(第二順位、3分の1)
直系尊属とは、被相続人の真上の血縁者のことです。
両親、その親(祖父母)、またその親(曾祖父母)…
※おじ、おばは「傍系」と呼びます。
被相続人に子がいない場合に相続人になります。(第二順位)
ただし、直系尊属すべてが相続人になるわけではありません。
被相続人からみて一番近い血縁の人だけが相続人になります。
例えば、生きている人が次のような場合。
被相続人の父、被相続人の母方の父(祖父)
このケースで相続人になるのは「被相続人の父のみ」です。
被相続人の母方の父(祖父)は相続人にはなりません。
配偶者との法定相続割合は 配偶者:3分の2 直系尊属:3分の1
配偶者がいない場合にはすべて相続します。
※直系尊属に「代襲相続」は発生しません。
直系尊属、例えば被相続人の両親がすでに亡くなっていた場合、その両親の子(被相続人からみて兄弟姉妹)が両親の相続人の地位を受け継ぐ、ということはありません。兄弟姉妹はあくまでも「兄弟姉妹」としての地位でのみ相続します。
同じように被相続人からみて「おじ・おば」も被相続人の祖父母の地位を受け継がないので相続人にはなりません。
また、被相続人の父のみ存命、母が死亡している場合でも、死亡した母の両親(被相続人の祖父母)へ母の相続分が受け継がれるというようなことはありません。
必要な戸籍謄本等の範囲
被相続人に子がいなかった場合には直系尊属が相続人となるので戸籍を取得します。
被相続人と関係が分かる範囲で戸籍が必要となります。
また、現住所を特定するために住民票または戸籍の附票が必要となります。
存命中の直系尊属がいれば、相続人調査はここで終了です。
被相続人に子がなく、直系尊属もすでに死亡している場合には、被相続人の両親の生まれた時から死亡時までの戸籍すべてが必要になります。
この「両親」は実親はもちろん、養子縁組をしている場合にはその養父母の分も必要です。
なぜなら、子、直系尊属がいなければ兄弟姉妹が相続人になるからです。
被相続人の同父母はもちろん、異父母の兄弟姉妹すべて調査、特定するためです。
4.兄弟姉妹(第三順位 4分の1)
被相続人に生存している子も直系尊属もいない場合には、兄弟姉妹が相続人になります。(第三順位)
配偶者との法定相続割合は 配偶者:4分の3 兄弟姉妹:4分の1
配偶者がいない場合にはすべて相続します。
また、兄弟姉妹でも同父母と異父母では相続割合は異なります。
同父母の兄弟姉妹 : 異父母の兄弟姉妹 は 2:1 です。
具体例を挙げて表にしてみます。
<例>相続財産1200万円 相続人が妻、被相続人と同父母の兄、母が異なる弟の場合
法定相続割合 | 兄弟間の割合 | 相続する金額 | |
妻 | 4分の3 | ― | 900万円 |
同父母の兄 | 4分の1 | ←の3分の2 | 200万円 |
母が異なる弟 | ←の3分の1 | 100万円 |
必要な戸籍謄本等の範囲
被相続人と兄弟姉妹であることがわかる範囲での戸籍が必要です。
また、現住所を特定するために住民票または戸籍の附票が必要となります。
兄弟姉妹がすでに死亡している場合には、代襲相続が一代限りで発生します。
そのため、死亡している兄弟姉妹の戸籍は生まれた時から死亡時までのものが必要になります。
また、代襲相続人(死亡した兄弟姉妹の子)の現住所の特定が必要になります。
※代襲相続により「おい」「めい」は相続人になるケースはありますが、「おじ」「おば」は相続人にはなりません。
3.まとめ
法定相続人は民法のルールで定まっています。
やみくもに戸籍謄本を取り寄せてしまうと時間・手間・費用がムダになってしまうことがあります。
例えば、被相続人に子がいれば兄弟姉妹の戸籍取得は不要です。
たとえ親しい親族でもおじ・おば・いとこなどは法定相続人ではありません。
また、実は被相続人に婚姻前の子がいた、被相続人の両親が養子縁組・離婚などを繰り返していて兄弟がでてきた…
当事者本人たちでも気づいていなかった相続人が発覚するケースもあります。
どこまでの範囲で戸籍謄本等が必要なのかは、ルールを理解さえすればおのずとわかります。
ルールをしっかりと押さえ順序良く丁寧にやっていくことが、相続人調査の一番の近道です。