父親が借金を残して死んでしまった…
亡くなった夫の借金はどうなるの?
被相続人が借金を残して亡くなった場合、相続人はどうなってしまうのでしょうか。
相続が発生すると、亡くなった方の借金も相続されます。
借金の額にもよりますが、どうするかは3つ選択肢があります。
①相続する(単純相続)⇒ 普通に借金を相続します
②相続放棄する ⇒ 借金も含め、すべての相続を放棄します
③限定承認 ⇒ 相続財産の範囲内でのみ負の財産(借金)を返済します
この3つについてそれぞれ解説していきます。
まず、このページでは①相続する(単純承認)をいくつかのケースに分けてみていきます。
借金の単純相続
まず、相続は発生したことを知ってから3か月以内にどうするか決めなければいけません。
その3か月間に相続放棄や限定承認の手続きをしなければ、相続することになります。
これを「単純相続」といいます。
借金があって迷っているうちにこの3か月(熟慮期間)が過ぎてしまうと、相続放棄はできなくなってしまいます。
では、借金をどのような割合で相続人が負担するのか単純相続のケースをみていきます。
1.相続人が1人の場合
相続人が1人の場合はプラスの財産もマイナスの財産もすべてその人1人で相続します。
借金が1,000万円あったら、その人1人で利息・遅延損害金も含めて返済義務が発生します。
2.相続人が複数の場合
相続人が複数いる場合は相続割合に応じて借金は分割されます。
相続割合はあくまでも「法定相続」です。
借金の負担割合は遺産分割協議で決めることはできません。
例えば、亡くなった方の相続人が3人、妻、子A、子B の場合を例にみてみると
プラスの財産3,000万円、借金4,000万円とします。
法定相続では次の表のようになります
法定相続割合 | プラスの財産 | 借金 | |
妻 | 2分の1 | 1,500万円 | 2,000万円 |
子 A | 4分の1 | 750万円 | 1,000万円 |
子 B | 4分の1 | 750万円 | 1,000万円 |
これはプラスの財産も借金も法定相続どおりです。
次に、遺産分割協議で妻がプラスの財産3,000万円すべてを相続すると決めた場合の表です。
法定相続割合 | プラスの財産 | 借金 | |
妻 | 2分の1 | 3,000万円 | 2,000万円 |
子 A | 4分の1 | 0万円 | 1,000万円 |
子 B | 4分の1 | 0万円 | 1,000万円 |
子A、子Bはプラスの財産を一切受け取らなくても、借金は法定相続割合のとおり相続されます。
3.相続人の1人が借金を返済しなかったら
先ほどの例でみていきます。
法定相続割合 | プラスの財産 | 借金 | |
妻 | 2分の1 | 3,000万円 | 2,000万円 |
子 A | 4分の1 | 0万円 | 1,000万円 |
子 B | 4分の1 | 0万円 | 1,000万円 |
上記の表のように話し合いでプラスの相続割合を決めたとします。
子Bが後になって借金のみの相続が不満になりまったく返済しなかった場合、妻と子Aは子Bの借金返済の義務はどうなるのか。
妻と子Aはそれぞれ自分の借金を返済すれば大丈夫です。
子Bの借金返済義務は一切ありません。
プラスの財産を3,000万円相続した妻は、借金とトータルするとプラス1,000万円になります。
それでも妻は子Bの借金を1円も支払う必要はありません。
※子Bの借金1,000万円について連帯保証などの契約を結んだ場合は、相続とは別の問題になります。
4.子Bに資力がある場合
また先ほどの表を例にみていきます。プラスの財産は法定相続分とします。
法定相続割合 | プラスの財産 | 借金 | |
妻 | 2分の1 | 1,500万円 | 2,000万円 |
子 A | 4分の1 | 750万円 | 1,000万円 |
子 B | 4分の1 | 750万円 | 1,000万円 |
仮に、子Bがお金持ちで自分の借金1,000万円の返済はもちろん、総額4,000万円の借金を一括返済できるだけの資力があったとします。
妻、子Aは普通の世帯。借金返済は難しい。
そんな場合でも子Bは妻2,000万、子A1,000万円の借金返済義務はありません。
また、よかれと思って勝手に妻と子Aの借金を返済することもできません。
子Bが妻と子Aのかわりに任意で返済することはできますが、その場合は妻や子Aの承諾が必要になります。(代位弁済)
注意)上記はあくまでも一般的な借金(ローン、消費者金融など)があった場合のケースです。債務に先取特権がある場合はそちらが優先されるので、プラスの財産を遺産分割協議で勝手にわけることはできません(例えば、被相続人が事業をしていて、従業員に対して給料を支払うという債務をもっていた場合など)。プラスの財産に抵当権が設定されている場合も相続人の負担割合の基本は同じですが、抵当権の取扱いは異なってきます。
5.相続人間の求償
上記ケースではどうしても不公平感が出てくると思います。
プラスの財産を全く相続しなかった人も借金の返済義務が発生してしまうからです。
では、その不公平感はどう解消するか。
例えば相続人が子AとBの場合。次のように相続したケースでみていきます。
法定相続割合 | プラスの財産 | 借金 | |
子A | 2分の1 | 3,000万円 | 1,000万円 |
子B | 2分の1 | 0円 | 1,000万円 |
法定相続割合は2分の1なのに、子Aがプラスの財産をすべて相続してしまっても子Bは借金1,000万円の返済義務があります。
子Bが債権者へ借金を1,000万円返済したとします。
その場合、子Bは子Aへ債権者へ支払った1,000万円を請求することができます。(求償)
ただし、債権者へは対抗できません。(「相続分が少ないから支払いたくない」という理由で拒否することはできません)
6.まとめ
このように、借金は本人たちの意志で遺産分割はできません。
連帯債務でもないので、自分が相続した借金の返済義務を負うのみとなります。
もちろん、他の相続人の借金を返済したり、連帯保証人になったりすることはできます。
しかし、自分の相続分以外の借金返済や連帯保証人になることはあくまでも任意です。
他の相続人に頼まれても拒否して大丈夫です。
また、プラスの財産を多く相続した人へ返済した借金を求償できる場合もありますが、それは相続人間の話になります。
債権者には関係のない話なので、普通に返済を請求されます。
もし相続財産に借金があった場合には、まずは戸籍謄本を取り寄せて相続人調査をし、どれくらいの債務が自分に相続されるのかを把握することが重要です。
②では相続放棄のケースをみていきます。